2020年11月8日、神奈川県大和市でFC MAT SPECIAL CLINIC2020 vol.2を開催し、メインコーチを務めました。
前回に引き続き、たくさんの選手に参加いただきました。ありがとうございました!
目次
スペインフットボール編 | 技術と戦術は表裏一体であることを体感
先のお知らせでも書いたように、技術と戦術は切っても切り離せない要素同士です。それを何とか体感してもらうためにクリニックでは、ジュニア選手が大好きなドリブルに主眼を置いてオーガナイズしました。
ドリブルを用いれば、ボールを運んだり、時間を作ったり、そして相手を抜いたりと多くのプレーを表現できます。指導する側としては、ドリブルを選択するならば、状況によってどのような目的を持つべきかを体系的に理解してなければなりませんが、選手、しかもジュニア年代に頭ごなしに伝えるのは無謀です。
ですので、今回のクリニックではピッチを守備・中盤・攻撃の3ゾーンに分割し、それぞれのゾーンで起きてほしい現象を作り出して、選手がプレーの選択の大切さに気がついてくれればと思いトレーニングを作成しました。
ここで少し話が脱線しますが、セレクションを行わず誰でも参加可能なチームの場合、選手間にレベルの差が生じてしまいます。この状態でトレーニングを行っているチームで、「技術と戦術問題」に頭を悩ませている指導者は多いのではないでしょうか。クラブの体制や所属選手の人数の関係で、チームを安易にセグメントできない事情は、一朝一夕では解決できません。
クリニックも当日にならないと各選手のレベルがわかりません。それでも伝えたいテーマをズラさずに、参加してくれた選手にあったオーガナイズに修正しながら、トレーニングを進めていきます。
ただ、初回と今回のクリニックを通して私が感じたのは、「そこまで指導者が神経質になる必要もない」ということ。それはプレーをしている選手目線で考えた時、彼らは技術と戦術の関係性をそこまで気にしていないはずだからです。例えば、「ドリブルができないからフットボールができない」とプレーを放棄する選手は、特別な事情がない限りいないからです。選手はまず、「ゴールを決めたい」「相手を抜きたい」「勝ちたい」といったワクワクする感情でプレーをしています。
こういった選手目線で考えると、フットボールを教える指導者が、指導で煮詰まった時に見るべきものは、トレーニングや試合で「選手が直向きに楽しくボールを追いかけているか」に、目線を移すことが大切なのかなと感じました(もちろんチーム環境は見直し続ける必要はありますが)。
とはいえ、クリニックではしっかりと選手に刺激を与えてレベルアップしてほしいので、さきほどお話したトレーニングオーガナイズでは、守備と中盤のゾーンを中心に次のことをポイントとして行いました。
守備 | パスを循環させながらパスラインを見つける
最終ラインを想定したポジションで、GKを含めたボールポゼッションを行いながらビルドアップを伺うシチュエーションを再現しました。
数的有利にしてボールポゼッションのストレスを和らげる代わりに、相手FWラインを突破するためのパスラインを見つけるように促しました。高学年ではパスラインを突破できなくてもボールポゼッションを「辺ではなく、面で行う」ように強調。俗に言う「無駄パス」が存在する理由をプレーで体感してもらいました。
中盤 | 極端に幅と深さをとり、ターンをせずに前を向く
今回のクリニックで一番要求が多かったのが中盤ゾーンです。
「選手輸送指導」で選手に気づきを与える
「スペースを作れ」と口では簡単に言えますが、プレーする選手にとって瞬時に再現するのは難しいことです。スペースを作るには、幅と深さを意識しながら動くことが大切ですが、指導者が言う「もっと大きく、広く動いてみよう」の大きくと広くを、選手が掴めていないことがあります。
そのような時、私はオンプレーでも選手を動いてほしい場所までヒョイと持っていきます。ジュニアの選手なら軽くて簡単です。「えっ、ここまで!?」と驚きながら動かされる選手をよそ目に、私は見てほしい場所に指差すと、選手が元いた場所に明らかなスペースができています。
本来はここまで大げさに行わなくても場合がありますが、指導の目的は選手の気づきなので、これくらい方がインパクトがあって効果的です。これはスペイン人コーチの通訳をしている時に彼が行っていた手法で、私は指導を受けている選手の表情を見て「これは良い!」と感じたことから取り入れています。
「斜めのパス」を行う理由をプレーで見せる
前の選手にボールを当てる場合は、斜めのパスが効果的であると言われていますが、トレーニングを通して理解しもらいました。斜めのパスを行う理由として、「ボール・人・スペースの視野確保」もひとつですが、ここでは「できるだけ早く前を向く」に注目させました。
中盤ゾーンの選手が攻撃ゾーンに侵入するには、「ターンをしてはいけない」というルールを追加。はじめ選手は「えー」と驚いていましたが、「パスを受ける時にどんなことをした方がいいかな?」という問いかけから、「斜めのパスを受けられるポジション」まで突き詰めることができました。そこから「斜めでパスを受けるとターンする必要がある?」と言うと、「あっ! ない!」と笑みをこぼしながら答えます。こういった問いかけを行い続けることで、効果的なプレーの原理が実体験のなかで理解できるようになります。
高学年では斜めのパスに加えて、「相手を背負った状態で前にパスを出すには?」というテーマをおまけで追加しました。奥行きの動きをもう少し意識させたかったので、ボールを受けた選手が落とすボールに味方の選手がギャップで入り、縦に当てるコンビネーションプレーを再現させるのが狙いです。言葉に出すと選手に情報過多で困惑すると思い、その場では伝えませんでしたが、「ターンせずに前を向く方法はグループでもできる」というのが狙いです。
南米フィジカル編 | ローテーションの中にメリハリを付けたトレーニング
南米フィジカルトレーニングでは、5箇所のステーションをローテーションしながら行いました。
「やる」と「抜く」のメリハリを重視
ステーションで行う動作は100%で行い、次のアジリティーに向かう時は歩いて呼吸を整える。このメリハリを伝え続けました。力の出しどころで思い通りのパフォーマンスを行うには、出力前のリラックスとの差が重要です。また、リラックスは筋や心肺の回復をサポートするので、これまた大切です。
ローテーションで連続的に行うことで、実際の試合の状況に近づけています。「試合中、足を止めない」とよく言いますが、こういった複合的なフィジカルトレーニングを入れることで、選手自身がリズムを作りながら、フルタイムを戦える身体になっていきます。
トレーニングの合間にアクティブストレッチ
トレーニングの合間にはアクティブストレッチを入れました。静的なスターティックストレッチは、筋出力が落ちてしまったり、フットボールで使う身体の動作からかけ離れているので、現在ではトレーニングや試合前には行わないようになっています(医者からのアドバイスや精神的安定が理由で行うことはあります)。そのため、筋の収縮を実際のフットボールの動作に近づけた形で行う動的なアクティブストレッチの登場です。クリニックでは特に、上半身と下半身の連動の鍵を握る股関節周りを中心に取り組みました。何人かの選手は股関節に体重を乗せた時、バランスを崩してしまっていたので、伝えた方法を継続的に行い改善してくれればと思っています。
最後はボールを使ったスピードトレーニング
最後はピッチ全面を使ったスピードトレーニングです。ラダーでステップを行った後、バランスディスクでランジ。その後は30mほどポールをスラロームしながら加速し、ターンをして素早く戻ります。戻り際にコーチからボールが配給されるので、それをリターンしてスタートに戻る、といった内容です。
はじめに行ったトレーニングを異なり、これはスタートポジションで2〜3分ほどレストの時間があります。爆発的なパワーの向上を目的としていますが、こういったタイプのトレーニングはなかなかやる機会がないと思いますので、選手にとっては新鮮だったのではないかと思います。
結構なロングランですが、ポールやボールを使って実践に近い動きと楽しさを加えることで、選手たちは最後まで集中して取り組んでくれました。
最後は出したい現象が出て一安心。次回は2021年1月開催予定
低学年と高学年のクリニックを終えた後は 、「出したい現象が終盤で出てよかった!」と胸を撫で下ろしました。選手たちは慣れないトレーニングを理解するだけも素晴らしいのに、もっと上手くなりたいという意識が、用意したトレーニングをより洗練されたものにしてくれました。これには、本当に感謝しています。
FC MATが運営をする私のクリニックの第3回は、年をまたいで2021年1月開催を予定しています。
継続してきてくれる選手にはより深い思考力を、初めて参加する選手は新しい刺激を提供できるように準備しますので、乞うご期待ください。